栗原木工所専務 栗原章人

栗原木工所に「塗り」という可能性を切り拓いた専務 栗原章人は、こう静かに語りました。

栗原木工所のショールームには様々な技法での「塗り」製品が並んでいますが、その中には、現在「それが出来る職人さんも少ない」という「金虫食い塗」の小引き出しもありました。
目を見張る工芸品の美しさ。
「でも、それは、今自分達が目指しているところとはちょっと違うんです。」と専務は言います。
「これは職人さんが作ればいいと思うんです。伝統を引き継ぎ、そのままに残していく。
でも、自分が考えていることはちょっと違う。伝統を引き継いでいくことは大切です。
でも、その技術を下敷きにして、そこに新しい形、新しい色といった自分らしさを加え、コストパフォーマンスも伴う『製品』としてお客様のニーズに答える体制を整えていきたいと思っています。」

木工製品だけを作っていた栗原木工所が、塗りの技術を導入し、製造から仕上げまでの全ての工程を、社員一丸となり作り上げる。
その技術は今、各方面で高い評価を得ることとなりました。
新しい道を切り開いた栗原木工所の製品には多くの物語と、実績があったのです。
「この土地で、自分が作り上げていく『武州塗り』」


栗原木工所の技術の高さは、一目瞭然にわかります。

「塗り」で最も難しい鏡面仕上げの美しさは、飛びぬけたクオリティーを誇り、各方面から、その製品を見て名指しで注文をいただくほど。
「うちの製品はバフを必要としない クリーンルームを活用しています。
塗りでバフは切り離せない作業ですが、どうしてもわずかな曇りがでてしまう。
バフを行なわないことで、製品は他にない輝きを得ることができる。
また、その一番手間のかかる工程を省くことでコスト面でも断然違いが出てくるんです。」
技術を継承して、新しい息吹を吹き込む。
栗原専務の挑戦はまだまだ続いています。

現在、塗りで有名なのは輪島塗りや会津塗りですが、その独特の塗り方というよりは、場所の名前、「輪島で塗られているもの。会津で塗られているもの。」
という意味合いのほうが強い。つまり、専務が修行を積んだのは会津塗りですが、埼玉の栗原木工所で塗られる製品を会津塗と謳うことは厳密には「違う・・」ということになってしまう。

「漆の持つイメージ、古い形にとらわれずにモダンテイストを取り入れ、漆器というジャンルひとくくりでなく、新しい形、色、漆塗りのスタンスを変えて行きたい。
名前もそのひとつ。自分が教えてもらった塗りを新しい形に変えて、この土地で『武州塗り』という『塗り』のブランドを立ち上げたいと思っています。」

他では作れない新しい製品、しかし、伝統の技術はしっかり継承した専務の「塗りに関して、ご相談を受けたら断らない。どんな注文もこなしてみせる!」という気迫・自信・ゆるぎない向上心がこのクオリティーを生み出していると言えるのかもしれません。

「木工から塗りまで、一貫した製品作りが産み出す良さ」


栗原木工所は当初、木加工専門の会社でした。
製品の仕上げの「塗り」を依頼していた工房が経営的に立ち行かなくなり、専務は塗りの工程も自分の会社で仕上げていく決意を20代で固めたのです。

「その当時、20代の若さで、そういった伝統工芸の世界に足を踏み入れる者は皆無で、後継者不足に悩む各方面の先輩方にはとてもかわいがっていただきました。」

自分はただ好きで塗りを極めるわけではない、会社の未来を自分が握っている。
10年かかるといわれる修行を2年で終えた専務の気迫はこういった背景を背負っていたからともいえるのでしょう。

しかし、この決断が他の会社にはない「栗原木工所」独自の一貫性を産み出しました。
木工加工だけではない、デザイン・加工・塗り・組み立てまでの流れを全て自社で行なえる。

「通常、お客様は欲しい品物を思い描いた時にどこに発注すればいいのか悩むと思います。そして、木工はここに、次に塗りはここにお願いする・・
そういう工程が普通です。
ですが、出来上がったものは多くの人の手を経ることで、当初のイメージとは違った造形になってしまうことがある。
しかも、それぞれに頼むコストは大きなものです。」

「塗り」を知らない木工所が作る製品は、必ずしも「塗り」の工程に適したデザインになっているとは限らない。とも専務は言います。

だからこそ、鏡面塗装で思うような作品が出来上がらず、すがるようにやってくるお客様がいることを専務は語ってくれました。

「デザインから組み立てまで、全てを自分達の手で仕上げられることに誇りを持っています。
ご相談を受けたお客様には、納得のいくものがご提供できるよう、誠心誠意とりくんでいます。」
全ての工程を自社で行なえる。品質の高さを維持した上で、コストを下げる努力が出来る。

「これまで、請けた仕事でクレームや返品を受けたことはただの一度もない。」

そう胸を張る専務には、社員とともに育て上げてきた技術にたいするプライドと未来に向かって突き進んでいく決意、そう、「伝承、そして創造への想い」が伺えました。